
共有名義の不動産を売却する際には、譲渡所得税や印紙税、登録免許税といった税金がかかります。さらに、持分割合に応じた計算や確定申告の必要があるなど、単独名義よりも手続きが複雑です。
本記事では、共有名義の不動産売却でかかる税金の種類や計算方法、確定申告のやり方まで、わかりやすく解説します。
目次
共有名義の不動産を売却したときにかかる税金

共有名義の不動産を売却すると、利益が出た場合に課される譲渡所得税に加え、契約書に必要な印紙税、登記手続きに伴う登録免許税など、さまざまな税金がかかります。
1.譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対して課される税金です。
一般的には譲渡所得税と呼ばれますが、実際には所得税と住民税で構成されています。税率は共有者の所有期間により異なり、次のとおりです。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63%(内、0.63%が復興特別所得税) | 9% | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315%(内、0.315%が復興特別所得税) | 5% | 20.32% |
なお、2037年までは復興特別所得税が所得税に上乗せされます。(短期譲渡:0.63%、長期譲渡:0.315%)共有名義の場合は、持分ごとに課税が判定されるため、注意が必要です。
参照:国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
2.印紙税
不動産売却時に作成する売買契約書には、印紙税がかかります。契約金額に応じて税額が変わり、税率は以下のとおりです。
| 契約金額 | 本則税率 | 軽減税率(~2027年3月31日) |
|---|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 | – |
| 1万円以上10万円以下 | 200円 | – |
| 10万円超50万円以下 | 400円 | 200円 |
| 50万円超100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
| 1億円超5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
契約書は売主・買主が1通ずつ保有するため、印紙税は双方が負担するのが一般的です。現在(2025年時点)は軽減税率が適用され、2027年3月31日までの契約書には上記の税額が適用されます。
3.登録免許税
不動産売却時には登録免許税がかかります。所有権移転登記や抵当権抹消登記など手続きをする際に課税され、税率は以下のとおりです。
| 登記の種類 | 本則税率 | 軽減税率(適用期限あり) |
|---|---|---|
| 売買による所有権移転登記(土地) | 2.00% | 1.5%(令和8年3月31日まで) |
| 売買による所有権移転登記(建物:住宅用) | 2.00% | 0.3%(令和9年3月31日まで) |
| 相続による所有権移転登記 | 0.40% | – |
通常は買主負担ですが、ケースにより売主が負担することもあるため注意しましょう。
参照:国税庁 登録免許税の税額表
不動産売却によって課税される譲渡所得の計算方法

不動産売却で実際に税金がかかるのは「売却益=譲渡所得」が出た場合です。課税対象となるこの譲渡所得は、次のように計算します。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
たとえば、売却価格3,000万円・取得費500万円・譲渡費用100万円の場合、譲渡所得は2,400万円になります。共有名義の場合、この金額を持分割合で按分します。
譲渡所得が出た共有者ごとに税率をかけて税額を算出するため、まずはこの利益額を正確に把握することが重要です。条件を満たせば、特例控除の適用で節税効果も期待できます。
共有名義の不動産売却では3,000万円特別控除が節税に活かせる

不動産を売却して利益が出ると税金がかかりますが、マイホームであれば大きな節税につながる3,000万円特別控除が利用できます。共有名義の場合も、各共有者に適用できるのが大きなメリットです。
この章では、制度の仕組み、適用条件、申告に必要な書類を解説します。
3,000万円特別控除とは
3,000万円特別控除とは、マイホームを売却した際に発生した利益(譲渡所得)から最大3,000万円まで差し引ける制度です。この制度を利用すれば、共有している不動産を売却した時に、それぞれの持分に対して譲渡所得税を減らすことができます。
控除額は、譲渡所得=売却収入-(取得費+譲渡費用)で算出されます。3,000万円特別控除の特例を受けるには、以下の5つの適用要件を満たす必要があるため、事前に確認しておきましょう。
【適用要件】
- 1.売却した資産がマイホームに該当すること
- 2.過去2年間で特例を使っていないこと
- 3.買換え・交換特例を併用していないこと
- 4.他の特例と重複していないこと
- 5.特別関係者への売却でないこと
必要書類
特例の申告は、所管税務署へ以下の書類を提出します。
| 書類 | 入手先 |
|---|---|
| 確定申告書・譲渡所得の内訳書 | 税務署 / e-Tax |
| 不動産売買契約書 | 自身で保管 |
| 不動産登記簿謄本(全部事項証明書) | 法務局 |
| 戸籍附票または住民票 | 市区町村役場 |
| 取得費や仲介手数料の領収書 | 自身保管 / 不動産会社 |
3,000万円特別控除についてより詳しく知りたい方は以下をチェックしてください。
共有名義と単独名義はどっちが良い?不動産売却での税金の違い

不動産にかかる税金は、共有でも単独でも、同じ種類が課されます。共有名義と単独名義の不動産売却時における税金の違いを知り、無駄な税負担を避け、将来のトラブル防止にも役立てましょう。
| 項目 | 単独名義 | 共有名義 |
|---|---|---|
| 譲渡所得の計算 | 全額を売主1人で計算 | 各共有者の持分割合で按分 |
| 納付 | 1人がまとめて納付 | 各共有者が自分の持分に応じて納付 |
| 税負担 | 全額を1人で負担するため大きい | 共有者ごとに分散するため、1人あたりの税額は低めになりやすい |
| 所有期間の判定 | 売主本人の所有期間 | 共有者それぞれの所有期間 |
| 特例・控除の適用 | 売主本人が要件を満たすか | 共有者ごとに要件を判定し、適用可能なら各自で控除を受けられる |
| 3,000万円特別控除 | 最大3,000万円まで控除(1人分) | 各共有者が最大3,000万円まで控除可(合計で控除枠が大きくなる) |
| 税率 | 長期/短期の区分に応じて一律で適用 | 各共有者の所有期間に応じて税率が適用 |
共有持分を譲渡したらどうなる?集約して売却する際のリスクと注意点

共有不動産をスムーズに売却するために、持分を1人に集約しようとするケースがありますが、税金面で注意が必要です。
無償で持分を譲渡すると、受け取った側に贈与税がかかる可能性があります。また、有償で譲渡した場合でも、売った側に譲渡所得税が発生します。
安易に名義をまとめると想定外の課税リスクがあるため、専門家に相談しながら慎重に進めましょう。
共有名義の不動産の売却後は確定申告を行おう

共有名義の不動産を売却して利益が出た場合は、確定申告が必要です。各共有者が持分に応じて申告するため、方法や必要書類、記入のポイントを押さえておきましょう。
申告方法
確定申告の申告方法は「e-Tax」と「紙申告」があります。e-Taxなら自宅で国税庁の確定申告コーナーのページより申告可能で便利ですが、初回利用時はマイナンバーカードなど事前準備が必要です。
参照:国税庁 確定申告書等作成コーナー
必要書類
共有名義不動産の確定申告では、基本的な書類に加え、共有持分や共有者情報の確認が必要です。
【必要書類一覧】
- ・確定申告書・譲渡所得の内訳書
- ・不動産売買契約書
- ・不動産登記簿謄本(共有持分と共有者情報を確認)
- ・仲介手数料など譲渡費用の領収書
- ・取得時の契約書や領収書(取得費用の確認用)
- ・源泉徴収票
- ・本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
申告書の書き方
譲渡所得の内訳書は、不動産の所在地や売買契約日、取得費、譲渡費用などを記入する確定申告用の重要書類です。共有名義の場合は、各共有者の持分割合を反映して計算・記入し、それぞれが申告します。
記入誤りは申告不備につながるため、領収書や契約書を基に正確に記入し、不明点は専門家へ相談しましょう。
参照:国税庁 確定申告特集
共有名義の不動産売却で発生する税金に備えよう

共有名義の不動産売却では、譲渡所得税や印紙税、登録免許税などの税金がかかります。持分ごとの課税や特例適用が必要なため、単独名義との違いを理解することも重要です。事前に確定申告の準備を整え、節税やトラブル防止につなげましょう。
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1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

