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認知症になった親の家は売却できる?制度や売却手順、やってはいけないことを解説

2025.08.24

不動産を売却する権限は、その所有者にしかありません。そのため所有者である親が認知症になり、意思能力を失ってしまった場合、子どもであっても代理での売却は原則できないのが実情です。ただし、成年後見人制度を活用すれば売却が可能になります。

本記事では認知症になった親の家の売却について、方法や手順を解説します。やってはいけないことにも触れているので、売却を検討している方は参考にしてください。

認知症になった親の家は売却できない?

認知症になった親の家は、原則売却できません。ただし例外もあります。まずは、名義人である親が認知症になった場合の不動産売却について、基本を押さえておきましょう。

原則売却できない

認知症になった親名義の家は、原則売却できません。不動産売買には名義人の意思能力が必要だからです。意思能力とは、自分の行動がどんな法律的な結果をもたらすかを理解できる能力を指す法律用語。認知症により意思能力が欠けている場合、契約は無効となってしまいます。

また親が認知症だからといって、子どもが代理人として売却することも不可能。なぜなら、子どもを代理人に立てるには親の明確な同意が不可欠だからです。たとえ委任状を書いても、親が売却を理解していなければ契約は成立しないため注意しましょう。

売却できるケースもある

親が認知症であっても、症状が軽度で意思能力がある場合は家を売却することも可能です。このほか、認知症の親が住んでいても不動産の名義が他の家族である場合、問題なく家の売却手続きを進められます。

また意思能力はあるものの、入院中などの理由から契約に出向くのが難しいケースであれば、委任状を作成することで子どもが手続きを代行できます。

認知症の親の家を売却|成年後見制度の活用法

親が認知症で意思能力がない場合でも、成年後見制度を活用することで家の売却が可能です。ここでは、同制度の基本とメリット、デメリットを解説します。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症の進行や知的障害などで意思能力を失った親の代わりに、不動産売却などの法律行為を行える制度です。本人に代わって家庭裁判所が選んだ成年後見人が、契約手続きや財産の管理を行います。

成年後見制度は、以下のとおり2種類あります。

【法定後見制度】
すでに判断力が不十分になっている人のために、裁判所が後見人を選任する制度
親族だけでなく、司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることもある

【任意後見制度】
本人にまだ判断力があるうちに、将来意思能力を失った場合に備えて予め後見人を自分で選んでおく制度
本人が判断力を失ってから効力が生じる

こうした制度を活用することで、親が意思表示できない状態でも家を売却することが可能です。

成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見制度には、以下のようにメリットとデメリットがあります。

【メリット】

  • ・本人の代わりに後見人が契約を進められる
  • ・相続ではなく生前に売却することで、管理負担や税負担軽減につながる
  • ・不利益な契約を後見人が判断して無効にできる

【デメリット】

  • ・家庭裁判所へ後見人選任の申し立てが必要
  • ・親族が後見人になれないことがある
  • ・専門家が選定された場合は報酬の支払いが生じる
  • ・不動産の売却理由が明確でなければ認められないケースがある

成年後見制度を使って親の家を売却する手順

成年後見制度を活用して家を売却するには、適切な手順を踏むことが重要です。ここでは、制度を使って家を売るための流れを6段階に分けて解説します。

1.必要書類を準備する

成年後見制度を活用して家を売却するには、まず家庭裁判所への申し立てに必要な書類を集めることから始めます。主な必要書類は以下のとおりです。

  • ・申立書
  • ・診断書(成年後見制度用)
  • ・本人の戸籍謄本
  • ・本人の住民票
  • ・後見人候補者の戸籍謄本と住民票(親族が候補の場合)
  • ・親族関係図
  • ・財産目録・収支予定表

必要書類の詳細は、地域の家庭裁判所のホームページや自治体の窓口のほか、司法書士などの専門家に確認すると安心です。

2.家庭裁判所に申し立てを行う

書類の準備が整ったら、親が住んでいる地域を管轄する家庭裁判所に「成年後見開始の審判」を申し立てます。申し立て後は、家庭裁判所が本人や親族、後見人候補者に事情を確認し、必要に応じて医師の鑑定も行われます。

3.裁判所が成年後見人を選定する

家庭裁判所による審理の結果、成年後見人が選ばれます。このとき必ずしも親族が選ばれるとは限らず、状況によっては司法書士などの専門家が選ばれることも。なお、選定には通常2ヶ月ほどかかります。

4.不動産会社と媒介契約を結ぶ

後見人が決まったら、不動産会社に査定を依頼します。複数者に見積もりを出してもらい、比較検討しましょう。信頼できる業者が決まったら、媒介契約を結びます。その後物件は売りに出され、販促活動が開始されます。

5.買主と売買契約を結ぶ

物件の購入希望者が見つかったら、売買契約を結びます。ただし、その物件がもともと所有者本人の住居だった場合は、売買契約の前に家庭裁判所の許可が必要です。書類を提出し、売却の必要性や妥当性が認められたのちに、後見人が代理で契約を進めます。

6.家の引き渡しと決済を行う

契約が済んだら、決済と物件の引き渡しを行います。売買代金の受け取りと同時に所有権移転登記の手続きを済ませれば、不動産の売却は完了です。

親の認知症が軽度の場合にできる売却対策2つ

親の認知症が軽度であれば、生前贈与や家族信託によって、事前に家の所有者や管理者を決めておくのも一つです。ここでは、親の判断力があるうちにできる2つの対策を解説します。

1.生前贈与

親の認知症が軽度のうちにできる売却対策として、生前贈与で不動産を子どもなどに譲っておく方法があります。判断力がある段階で所有権を移しておけば、親の症状が進行した後でも子どもが名義人として自由に売却できます。

生前贈与は渡す時期や売却のタイミングを自由に決められ、節税につながる可能性がある点がメリット。一方で、贈与税の発生や贈与後の取り消しが難しい点には注意が必要です。

2.家族信託

親の認知症が軽度であれば、家族信託で将来の売却に備えるのも一つです。家族信託とは、信頼できる家族に財産管理を託す制度のこと。契約の段階で「将来売却も可能にする」と内容を定めておくことで、親の認知症が進行しても子どもが家を売却できます。

成年後見制度と違い、売却に裁判所の許可は不要で、柔軟に不動産を管理しやすいのがポイント。ただし契約時にまとまった費用が必要で、手続きがやや複雑なため専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。

認知症になった親の不動産売買についてよくある質問

ここでは、認知症になった親の不動産売買に関する質問と回答を紹介します。

認知症の親の家を売るときに絶対にやってはいけないことは?

認知症になった親が所有する不動産売買について、以下に挙げることはやめましょう。

  • ・勝手に親の家を売る
  • ・親の名義で家を買わせる
  • ・親族に相談せずに動く

たとえ子どもであっても、親の同意なしに不動産を売却したり、認知症の親に契約を結ばせたりしてはいけません。トラブルを防ぐためには制度を適切に活用し、事前に親族とよく話し合っておくことが大切です。

施設に入った親の家を売却するには?

介護が必要で親が施設に入っている場合でも、意思能力が明確であれば、委任状を作成することで子どもが代わりに売却手続きを進めることが可能です。

一方、重度の認知症で意思能力が欠如している場合は勝手に売却できません。成年後見制度を利用し、家庭裁判所を通して手続きを進める必要があります。

認知症の親の家は売却できるが、慎重に手続きを進めよう

認知症の親が名義人になっている家は、原則売却できません。ただし、成年後見制度を活用し家庭裁判所の許可を得ることで、後見人が代理で売却することは可能です。

親の認知症が軽度のうちに生前贈与や家族信託も視野に入れながら、親族とよく話し合って不動産管理の方針を検討しましょう。不動産売買でお困りの方は、弁護士と提携している住栄都市サービスまでお気軽にご相談ください。

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監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

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