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相続した不動産を売却するときにかかる税金はいくら?特別控除や注意点をチェック

2024.01.07

相続した不動産を売却するときにかかる税金は5つあります。「相続税、登録免許税、譲渡所得税、印紙税、復興特別所得税」です。

これらの税金がかかりますが特別控除があるため、条件に該当すれば税金を抑えられます。特別控除には取得費加算の特例、3,000万円の特別控除、軽減税率の特例があります。

この記事では、相続した不動産を売却するときにかかる税金や特別控除に加え、注意点も併せて解説します!

相続した不動産は売却すべき?

そもそも相続した不動産は売却すべきかどうか、悩んでいるかも知れません。住む予定がないなら売却するのも手段のひとつです。

その理由は2つあります。1つ目は住む予定がなく家を放置してしまうと、劣化や腐食が進むからです。安全性や快適性が失われるなどさまざまなリスクを伴います。

2つ目の理由は、建物価値は年々下がる可能性があるという点です。いざ売却しようと思っても、価値が下がっていて予想以上に利益が少ない可能性も十分考えられます。

また、不動産は所有しているだけで、固定資産税などの税金がかかります。このような理由から、相続した不動産は住む予定がないなら売却を検討するのがおすすめです。

相続した不動産を売却するときにかかる税金5つ

相続した不動産を売却するときにかかる税金は以下の5つです。

・相続税
・登録免許税
・譲渡所得税
・印紙税
・復興特別所得税

それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。

1.相続税

相続税とは、預貯金などの財産を相続する際にかかる税金です。不動産を売却する前に財産を相続する手続が必要であり、その際に相続税がかかります。

相続税は遺産の額に応じて変動する特徴があり、遺産の課税額が相続税の基礎控除を超えたときのみ税金が発生する仕組みです。

基礎控除とは、国税庁が示した税金が発生しない金額の範囲を意味します。基礎控除額は以下の計算式で算出できます。

<基礎控除の計算式>
3,000万円+600万円×法定相続する人数

遺産の課税額が上記の基礎控除額を超えた場合のみ、相続税が発生します。

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。相続する人の生前住所の税務署に申告し、金融機関で納付します。

延納や物納をする場合でも、申告期限内に手続きをするのが基本です。

2.登録免許税

登録免許税とは、不動産の所有権登記を相続人名義に変更するときにかかる税金のことです。

遺産である土地や建物などの名義を相続人の名義に変更する手続きを「相続登記」といいます。登録免許税の税率は、登記の種類によって異なる特徴があります。

登録免許税の計算式は、次の通りです。

<登録免許税の計算式>
税額=課税標準×税率

相続による土地の所有権移転登記の場合の税率は0.4%、また相続による住宅の所有権移転登記の場合、税率は0.4%かかります。土地と住宅両方の場合は、どちらの税率も加算されます。

3.譲渡所得税

売却したときの金額によっては譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、不動産の売却で得た利益に対する所得税と住民税のことです。

不動産を購入した金額よりも、売却した金額が高い場合に発生します。譲渡所得税の計算式は次の通りです。

<譲渡所得税の計算式>
税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)
課税譲渡所得金額 = 収入金額-( 取得費 + 譲渡費用 )-特別控除額

収入金額とは、不動産売却によって得た金額のことです。また、特別控除額とは相続されてから3年以内に売却するなど、ある一定の条件を満たしている場合に適用されます。

※特別控除に関しては「税金を抑えられる3つの特例」の章で詳しく解説します。

加えて、上記の計算式の税率は、不動産の所有期間によって変わるので注意しましょう。以下のように、短期譲渡所得と長期譲渡所得で所得税と住民税の税率が変わります。

・短期譲渡所得:譲渡した年の1月1日時点で5年以下
税率:所得税30%、住民税9%

・長期譲渡所得:譲渡した年の1月1日時点で5年以上
税率:所得税15%、住民税5%

不動産の所有期間は、相続人が所有したときからの期間で算出されるのが一般的です。5年以上の長期譲渡所得に該当する場合、税率が低くなります。

4.印紙税

売買の契約書を作成したときに発生する印紙税も必要です。印紙税は契約金額に応じて変動し、金額が上がるほど印紙税も高くなります。

以下の表は、契約金額に応じた印紙税を表したものです。

契約金額 印紙税 軽減税額
10万円以下 200 200
10万円超え50万円以下 400 200
50万円超え100万円以下 1000円 500円
100万円超え500万円以下 2000円 1000円
500万円超え1000万円以下 1万円 5000円
10000万円超え5000万円以下 2万円 1万円
5000万円超え1億円以下 6万円 3万円
1億円超え5億円以下 10万円 6万円
5億円超え10億円以下 20万円 16万円

印紙税は郵便局で印紙を購入して納税します。契約書を作成した枚数ごとに印紙税がかかると覚えておきましょう。

5.復興特別所得税

令和19年(2037年)までは復興特別所得税も必要になります。東日本大震災の復興に必要な財源を確保するため、所得税の税率に2.1%が加算されます。

復興特別所得税の計算式は以下の通りです。

<復興特別所得税の計算式>
復興特別所得税額=基準所得税額×2.1%

給与所得者の場合は、支払を受ける給与等から復興特別所得税が源泉徴収されます。

税金額を抑えられる特例3つ

先述したように、ある一定の条件を満たしている場合には、税金を抑えられる特別控除を受けられる制度があります。

税金額を抑えられる特例は、次の3つです。

1.取得費加算の特例
2.3,000万円の特別控除
3.軽減税率の特例

それぞれの特例について、詳しい内容を確認していきましょう。

1.取得費加算の特例

取得費加算の特例は、相続した不動産を3年以内に売却する場合に受けられる特例です。

特例の要件には以下のような条件があります。

<特例の要件>
・相続や遺贈を受け、財産の所有権を得た者であること。
・その財産の相続にあたり、相続税が課されていること。
・その財産を相続税の申告期限翌日から3年以内に譲渡していること。

要件にあるように、取得費加算の特例は相続税を課税されている人のみが対象です。相続や遺贈を受け財産を得たとしても、相続税を支払っていない場合は対象外となります。

取得費に加算される相続税額の計算式は以下の通りです。

<取得費加算される相続税額の計算式>
取得費加算される相続税額=相続税額×不動産の課税価格/(全相続の課税価格+債務控除)

特例の適用を受けられるかどうかは、国税庁のホームページで公開しているチェックシートで判断することも可能です。

2.3,000万円の特別控除

3,000万円の特別控除を受けるには細かな要件を満たしている必要がありますが、代表的なものに「自己居住用財産を譲渡した場合」と「相続した空き家を譲渡した場合」の2つがあります。

<自己居住用財産を譲渡した場合>
個人がマイホームを売却し、定められた要件を満たしている場合に最大3,000万円の控除が受けられるという制度です。この制度の重要なポイントは売却する不動産が自己居住用財産の条件を満たしているかどうかです。

売主が売却直前まで住んでいた場合は問題ありませんが、親から相続された家で売主が相続後に、全く住まず空き家状態だった場合は、適応外になるため注意しましょう。

<相続した空き家を譲渡した場合>
親が生前に1人で住んでいた建物や、その敷地を相続し、空き家を売却する際に以下の要件をすべて満たしていれば、最大3,000万円の控除が適応されます。

ただし、令和6年1月1日以後に行う譲渡では、相続人の数が3人以上の場合は最大控除額は2,000万円までとなります。

【特例の対象となる居住用財産】
・昭和56年5月31日以前に建築されていること。
・区分所有建物登記をしていない建物であること。
・相続開始の直前において、被相続人以外の居住者がいなかったこと。

【特例の適用となる要件】
(1) 売却した人が、相続あるいは遺贈により、被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を取得していること。

(2) 次のA、BまたはCを売却をしたこと。
A:相続または遺贈により、取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を売ること。

※被相続人居住用家屋は次の2つの要件(a)(b)両方に該当する必要があり、被相続人居住用家屋の敷地は(a)の要件に該当する必要があります。

(a)相続のときから譲渡のときまで事業の用、貸付けの用、居住の用など他者に提供されていないこと。

(b)譲渡の時点で一定の耐震基準を満たしていること。

B:相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋のすべてを取壊したあとに、被相続人居住用家屋の敷地等を売却すること。

※被相続人居住用家屋は次の(a)の要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次の(b)および(c)の要件に当てはまることが必要です。

(a)相続のときから取壊しのときまで事業の用、貸付けの用または居住の用など他者に提供されていないこと。

(b)相続のときから譲渡のときまで事業の用、貸付けの用または居住の用など他者に提供されていないこと。

(c)取壊しの際や譲渡のときまで建物または構築物の敷地の用に、提供されていないこと。

C:相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を売る場合で、次の(a)および(b)、または(a)および(c)の要件に当てはまること。(上記のAに掲げる譲渡に該当するものを除きます)※

(a)相続のときから譲渡のときまで事業の用、貸付けの用または居住の用など他者に提供されていないこと。

(b)譲渡のときからその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、一定の耐震基準を満たすことになっている。

(c)譲渡のときから、その譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、被相続人居住用家屋のすべての取壊しなどを行ったこと。

※令和6年1月1日以後に行う譲渡に限ります。

(3)相続が開始された日から、3年目を経過する年の12月31日までに売ること。

(4)売却代金が1億円以下であること。

(5)売却した家屋や敷地などについて、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用などの、特別控除や他の特例の適用を受けていないこと。

(6)同一の被相続人から相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。

(7)親子や夫婦など特別な関係がある人に対して売却したものでないこと。これには生計を一にする親族や売却した家屋で同居する親族、内縁関係にある人や特殊な関係を持つ法人なども含まれます。

3.軽減税率の特例

軽減税率の特例は、10年以上家を所有していた場合に税金が下がる制度です。

3,000万円特別控除の特例と併用可能になります。6,000万円以下と6,000万円超で税率が変わるのが特徴です。

・6,000万円以下:所得税10%+住民税4%=14%
・6,000万円超:所得税15%+住民税5%=20%

不動産売却にかかる税金シミュレーション

不動産売却にかかる税金の種類を見てきましたが、事前に税金のシミュレーションをしておくことも大切です。

以下の事例の場合「譲渡所得税・印紙税・復興特別所得税」がどれくらいかかるのか、確認していきましょう。

【事例】
・売却金額:4,500万円
・譲渡時に発生した諸経費:200万円
・取得価格:3,000万円
・取得時に発生した諸経費:100万円
・不動産の所有期間:10年間(長期譲渡所得)
・相続から譲渡までの期間:3年間以下

譲渡所得税のシミュレーション

譲渡所得税は特別控除を受けない場合と受ける場合で、金額が大きく異なります。
先述しましたが、譲渡所得税の算出方法は次の通りです。

税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)
課税譲渡所得金額 = 収入金額 ー( 取得費 + 譲渡費用 ) ー特別控除額

<特別控除を受けない場合>
まずは課税譲渡所得を算出します。

課税譲渡所得金額=4500万円ー(3000万円+200万円)=1,300万円

課税譲渡所得金額:1,300万円

続いて、「税額=課税譲渡所得×税率」で税額を出します。不動産の所有期間は10年を経過しているため、長期譲渡所得の税率(所得税15%+住民税5%)で計算します。

税額=1,300万円×20%(税率)=260万円

譲渡所得税:260万円

<特別控除を受ける場合>
取得費加算の特例と3,000万円の特別控除が適応の場合を見ていきましょう。この2つの特例は併用できないため、どちらか金額の大きい方を適応させると良いでしょう。

今回の事例の場合、相続時に相続税がかからなかったため、取得費加算の特例は受けられません。そのため、3000万円の特別控除を受けるケースで考えます。

譲渡所得税が260万円なのに対して、3000万円控除されるため、この場合は譲渡所得税が発生しません。

印紙税のシミュレーション

4,500万円の売却契約なので、前述した印字税の表の「1,000万円超5,000万円以下」にあたり、2万円の印紙税が発生します。

印税の場合は特別な計算式はないため、表を参考に売却金額に応じた印紙税を払いましょう。

<復興特別所得税のシミュレーション

所得税に2.1%が上乗せされますが、今回は3,000万円の控除が適応したため、支払は発生しません。

不動産の相続から売却までの流れ

不動産相続から売却までの流れは以下の通りです。

1.遺言書の有無を確認する
2.相続する人数と順位を確認する
3.相続の対象になる財産を確認
4.遺産分割協議をする
5. 相続登記をする
6. 相続税の申告をし、納付する
7. 不動産の査定の依頼
8.媒介業者と契約を締結する
9. 売却の活動をする
10. 買主と売買契約を締結する
11. 不動産の引渡しをする
12.決済を確認する
13. 確定申告をする

上記の流れのうち1〜6は相続するときに必要な手続きで、7以降は不動産売却時に行うことです。流れを把握しておくことで、相続から売却までスムーズに行えるでしょう。

相続した不動産の売却の注意点3つ

相続した不動産の売却における注意点は、主に3つあります。

1. 遺言書の有無
2. 遺産分割協議書の作成
3. 相続登記

それぞれの注意点について確認していきましょう。

1.遺言書の有無

遺言書がある場合は原則、遺言書に従って分割します。名義変更も遺言書に従って変更するのが基本です。

遺言書に記載された内容とは異なる名義に変更をしたい場合は、遺産分割協議を行う必要があります。

2.遺産分割協議書の作成

遺言書がないときや、遺言書があっても異なる方法で分割したい場合には、遺産分割協議書を作成する必要があります。遺産分割協議書とは、相続人の間で遺産の分割方法について話し合い、内容をまとめて書面にしたものです。

遺産分割協議書の作成時には、相続人全員の署名捺印(実印)が必須になります。そのため、相続人を漏れなく把握する必要が出てきます。

遺産分割協議で共有名義になった場合は、売却するときに共有名義人全員の同意が必要です。

売却の同意だけでなく売却価格の同意を得る必要があるため、共有名義人の間で最低売却価格を設定しておくと良いでしょう。

3.相続登記

不動産を売却するためには、被相続人から相続人に所有権を変更する、相続登記をする必要があります。

相続登記をしないと、不動産は相続人全員の共有財産として扱われ、無断で売却できないからです。不動産を売却する前に、相続登記を忘れないようにしましょう。

相続した不動産の売却時にかかる税金を知って計画的に行動しよう

相続した不動産の売却時にかかる税金は、「相続税・登録免許税・譲渡所得税・印紙税・復興特別所得税」の5つです。

一見多く感じられますが、定められた条件に該当していれば特別控除で税金を抑えられます。特別控除には、「取得費加算の特例・3,000万円の特別控除・軽減税率」の3つの特例があります。

それぞれ細かい要件があるため、よく確認しておくと良いでしょう。相続した不動産の売却時にかかる税金と手続きの流れを知って、計画的に行動していきましょう。

監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

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